〜シミラ・ガールズ 〜序章〜『生まれてくる子供たちへ』



     その話を聞いたキミは、意外なほど驚いた顔をしていたね。

    「量産化・・・ですか?」

    「ああそうだよ。まさか知らなかったわけじゃないよね」

    これはキミがこの萌須田社に入社してから1年とちょっとのお話。

    昼下がり、社長さんがコーヒーを軽くすすり、改めて真剣な表情で話し始めた。

    「そっか、長く過ごしすぎて、すっかり忘れたんだろうな」

    そばにいる私も、その話をちょっと真面目に聞くことにした。

    「第一期生のロボット達は、1年のモニター期間と1年のデータ収集や調整を経て、

    量産化して世に売り出されるんだ。これは最初のモニター契約の時点で簡単に説明した

    はずなんだがな」

    社長さんは私の方も向いて、

    「もちろん、君も例外じゃないんだよ。愛羅くん」

    「えっ、あ、そうね。もちろん分かってるわ。うん」

    もう、急に言われたから私もびっくりしたじゃない。




     でも・・・社長さんの言ったことは間違いなく本当のこと。

    こうしてこの空間に何も問題なく溶け込んでいるけど、正真正銘、私はロボットなのだから。

    今存在している私はあくまでデータ収集のための試作品であり、いずれはそれを元に

    最新鋭のコミュニケートロボットとして量産され介護や精神医療をはじめとした色々な所へ

    人間のサポートのために行くことになる。

     そんな事は分かっていたはずなんだけど・・・。

    「ま、ただでさえ不況な世の中に、ウチはこんな一大プロジェクトをしてるんだものな。

     いずれはこうする事は決まってたし、それに君が開発する第二期生も期待してるんだ」

    「は、はぁ・・・」

    現実的な話になったせいか、どこか重たい雰囲気になっちゃったかも。

    「愛羅は、どう思う?」

    「ん、何がどう思うって?」

    「いや・・・この話。だってココや愛羅たちがたくさん作られて働くって事だろ?

     なんだかあんまり想像が出来なくてさ」

    確かにそれはそうかも・・・でも。

    「うーん、何となくだけど大丈夫って思うかな」

    「えっ、どうして?」

    「だって私の分身が人助けのために作られるんでしょ?

     それはとても素敵な事だわ。ふふ、妹とか娘が出来る気分ってこんな感じかなぁ。

     私はロボットだもの。人の役に立てるならそれはとてもとても嬉しいのよ」

    これは確実に、紛れも無く、私の本心。

    「なるほど・・・」

    「もうっしっかりしてよ。そんな難しいカオ、ちょっと似合わないよ?

     それにたとえどんなに私の分身が量産されても、私自身はキミのロボットである事に

     変わりは無いの。だから安心して」

    「・・・・・・・・・」

    ふいに、そっと胸のあたりを手で触れてみる。

    手のひらに感じるのは、内燃機関の静かな振動と、ゼンマイの非常にゆるやかなきしみ。

    ・・・あんな事言ったけれど、やっぱり正直不安はあるわよ。

    でもそれ以上に、これから素敵な事が起こりそうな予感を、この胸が感じ取ってるの。

    不思議ね、人とは違う構造なのに、改めて触ってみるとほんのり温かい。

    「? なにニヤニヤしてるんだ愛羅」

    「ううん、なーんでもない。急にビール飲みたくなったから買ってくるね♪」

    そう誤魔化してそそくさと部屋を出る私の足取りは、ほんの少し軽かった。




    そして、語られるもうひとつの物語。

    私の知らない私たちは、どんな形で人とふれあって素敵な物語を作ってくれるのだろう。

    願わくば幸せになって欲しい。そう思いながら私はビールに口をつけた。




【戻る】




    

inserted by FC2 system