〜愛羅が泣いた日〜





   「ごしゅじんしゃま〜、すすんでないれしゅよ〜。もっとのんでのんで〜」

   「ちょ、RUNA、そんなには無理・・・」

   「え〜。ごしゅじんしゃもはるにゃのこときらいなんでしゅか?」



    すごいことになっていた・・・・。

   「たしかに私たちは愛羅さんのようにアルコールを効率よく分解できるシステムは組み込まれていませんが・・・・」

   「いや〜、わたしもここまでとは思ってなかったな〜。でも、ま、いいじゃない。今日ぐらいは」

   目の前で起こっている恐ろしい(!?)光景をいつもの笑顔で眺めながら愛羅さんはすごいペースで

   ビール瓶を空けていく。

   「愛羅さんも今日は少しペースが速すぎませんか?いくらあなたでもそんなに飲むとシステム障害を起こしますよ」

   「だいじょうぶだよ〜。だって今日はとてもおめでたい日だもの」

   「いや、まあ、それはそうですが・・・」

   「まま、固いこと言わないの。飲んで飲んで〜」

   そういいながら私のグラスにビールを注いでくる。

   「ちょ、愛羅さん?これ以上は・・・」

   何か変だ。いつもの愛羅さんなら周りを気遣いながら適度に勧めてくるはずなのに。ましてや、自分のペースを

   乱して飲むなんてことは私の知る限り一度もなかったはずだ。今日はどこかはしゃぎすぎのようにも見える・・・・・。

   「愛羅さん、今日はどうしたのですか?いくらマスターの就職が決まったからって・・・・・。

   愛羅さんらしくないですよ?」

   そう言っても彼女は私に笑顔を向けるだけだったがその後、テーブルをはさんで正面にいるマスターとRUNAさんの

   方に向けたその顔は、喜びと愁いと優しさが入り混じったような、そんな今まで見たことないような表情だった。

   「ほんと、よかったね・・・・・。また、みんな一緒にいられるね・・・・。」

   今にも消えてしまいそうなほど小さく、とても優しい声だった。

   「また初詣に行こうよ。クリスマスパーティーもしようよ。海とか遊園地も今度はみんなで行こうよ。

   それからそれから・・・・これからもずっとみんなで・・・いっしょに・・・」 

   愛羅さんはマスターたちの方を向いたまま、誰に話しかけるということでもなく独り言のように言った。

   「そうですね。今年も行きましょうね・・・。」

   それに答えると一呼吸置いてから小さく

   「・・・・・・・・・うん・・・・・・・・。」

   と返事が返ってくると同時に愛羅さんが抱きついてきた。

   「あ、愛羅さん!?」

   「・・・・・ごめん・・・。・・ちょっとだけでいいから・・・ホント・・・・ちょっとだけ・・・・・・」

   今日の愛羅さんはやっぱり変だ。何か様子がおかしい。いつもは明るく、朗らかで、笑顔を絶やさない彼女が

   こんなにも・・・・やはり飲みすぎてシステム障害でも起こしているのだろうか。

   「・・・・アイリスちゃん・・・大好き・・・。」

   「ふぇ!?な、何を言って・・・・」

   「RUNAちゃんも大好き・・・・・。ココちゃんも大好き・・・・。みんな大好き・・・・。これからもみんなと一緒に・・・・

   いられるんだね・・・・・。よかった・・・・グスッ・・・・ほんとに・・・・よかった・・・・よかったよ・・・・」



   彼女のすすり泣く声が聞こえた。



   「愛羅さん・・・・」

   ・・・・・私は馬鹿だ。愛羅さんの優しい笑顔に甘えすぎていた。

    つらいことがあっても彼女は笑顔を絶やさず、時には慰めてくれた。本当の姉のように私たちを支えてくれていた。

   でも、彼女も私たちと同世代のロボット、私たちと同じように甘えたいと思ったときもあっただろう。泣きたいと

   思ったときもあっただろう。それなのに私は・・・。

    彼女なら、本来私たち量産モデルの試作機が向かうはずだった未来も容易に想像できたはずだ。昨日の夜も

   きっと、私たちと同じようにとてつもない不安を抱えていたはずなのに。とても怖かったはずなのに。それでも、

   彼女はいつもの笑顔で不安がるココさんやRUNAさんを慰めていた。

   「ありがとう、愛羅さん・・・・・・。」

   泣き続ける彼女を私は優しく、壊れないよう抱きしめた。



    昨晩、涙の止まらなくなった私に彼女がそうしてくれたように・・・・。





   「あいらちゃん、あいりしゅたん、ごめんね。いつもいつもたすけてくりぇて・・・ひっく・・・ごめんね。

   るなもがんばる・・・ひくっ・・・から・・・。これからも・・・なかよくして・・・ふぇーーーん」

   いつの間にかRUNAさんも抱きついてきていた。

   「・・・・なんかよくわかんないけど・・・みんな大好き!!」

   先ほどまで寝ていたはずのココさんも私たちに抱きついてきた。

   不覚にも一瞬、涙が出そうになってしまった。ああ・・・本当によかった。この方たちにあえて本当によかった。

   また一緒にいられて本当によかった・・・・・。

   「愛羅さん、私たちにはこんなに素敵な家族がいるんですよ。これからも、ずっと・・・・楽しい日々がきっと

   続いていきますよ。もし、つらいことがあっても私たちがいますから。遠慮なく甘えてくださいね。こう見えても私たち、

   意外としっかりしているんですよ」

   「ぐすっ・・・・・うん・・・・ありがと・・・・ありがとう・・・・」

   泣きながらそう答える愛羅さんを撫でていると、席を立つマスターと不意に目が合った。無言で部屋を出て行く彼は

   とても温かく、優しい目をしていた。

    きっと私たちに気を使ってくれたのだろう。ロボットとしてマスターに気を使わせてしまうのはどうかと思って

   しまったが、たまにはマスターの意に甘えさせてもらおう。



   もうしばらくこのままで・・・・。



   大好きなみんなとこのままで・・・・。





    「これからも、よろしくおねがいします。」





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