〜バトル・オブ・モエスタ@〜





   人気のない夜道の真ん中。外灯の明かりに照らされて、ぼんやりと人影が浮かび上がる。

   「…………」

   なにか危険なものを感じて、ラグナは身構えた。

   全身黒一色。顔さえも下半分を布で覆い隠している。

   細長いものを取り出し、手をかける。

   外灯の光を反射して、刀身がぎらりと光った。

   「!!」

   一閃。

   背後へ飛び退るラグナが一瞬前までいた空間を、光を纏った刀が薙いだ。

   「何をするんですか!」

   相手が音もなく、一瞬でラグナとの間合いを詰める。

   「あっ!」

   脚を折って上体を沈め、斬撃をかわす。返して再び襲ってくる刀を、ラグナは折った脚をばねに横に飛んで

   やりすごした。地面に飛び込んで一回転して起き上がるラグナの頭めがけて、声もなく刀が振り下ろされる。

   かわせない!

   「くっ!」

   ラグナは襲い来る刀身を、手のひらで受け流した。

   「!?」

   紅い目が、一瞬驚愕したように見開かれた。

   この紅い瞳……確かどこかで……!




   「でも、戦闘行為を禁止されているラグナさんを、こちらの都合で勝手に戦わせるというのは

    申し訳ないのですが……」

   「私はラグナに戦闘行為を禁じてはいませんよ」

   「えっ?」

   「『人を傷つけること』の意味を、自分で考えるように言っただけです」

   「……考えた上でなら、人を傷つけても構わない、と……?」

   「ええ。それがラグナの出した結論なら」

    あえてしてみた挑戦的な質問に、笑顔でうなずくリフレックスさん。

    ……俺はリフレックスさんの言いたいことがなんとなくわかった。俺に仕え、護ることのみを目的とし、

   感情に乏しかった以前のアイリスを見ていたころを、俺は思い出していた。




   暗い路地を駆けるラグナ。

    ……どうする? マスターに連絡するにも、相手がそれをさせてくれる可能性は……。

    ――ネガティヴ――

   周囲に助けを求めるか? ――だめだ。護衛ロボットの私が、皆様にご迷惑をかけるわけにはいかない。

    ――デンジャー!!

   「!!」

   真横から襲い来る刀身。よけきれずに服の肩が切り裂かれた。

   もう鬼ごっこはおしまいだ、と言うようにラグナの目の前に立つ。その紅い瞳からは、何を考えているのか

   まったく読み取れない。

   「く……」

   ラグナは剣に手を伸ばした。

   剣を抜くしか、ないの……?

   今までこの剣を抜いたことはない。ラグナはためらった。自分は護衛ロボットだ。ここで剣を抜いて相手を

   倒したとして、一体誰を護れると言うのだ?

   それに、この紅い瞳の人の目的は、一体なに……?




   「それでは、ラグナさんはおそらく……」

   「ええ。剣を抜きませんよ」




   相手はサムライソードを構え、こちらへ向けて地を蹴った。

   「!!」

   抜くか、抜かないか。二つに一つ。

   そこで、ラグナの脳裏にひらめくものがあった。

   私に剣を抜かせたがっている?


   ラグナは剣の柄から手を離した。

   振り下ろされる刀が、ラグナの目の前、寸前で止まった。

   「私の剣は人を護るためのものです。自分を護るためだけに抜くわけにはいきません。……アイリスさん」

   「……いつから気づいていたのですか?」

    アイリスは覆面を取った。

   「ついさっきです。貴女のその紅い瞳……見覚えがあったのですが、データベースの検索にまわす余裕が

    ありませんでしたので、随分かかってしまいました」

    アイリスはサムライソードを鞘に収めた。

   「これまでのご無礼をお許しください。詳細はこれより西部営業所にてご説明させていただきます。

    既に貴女のマスターのリフレックス様と私のマスターがお待ちです。

    申し遅れました。私は萌須田社本社所属のアイリスと申します」

   「はじめまして。萌須田社静岡西部営業所所属・ラグナです」






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