〜バトル・オブ・モエスタC〜






   「これが護衛対象のトレーラー……」

    ミキは倉庫の中に鎮座する大型トレーラーに近づいた。

    許可を得ての行為ではない。誰にも秘密の不法侵入である。

    謎めいた依頼。何か隠している様子の社長。

    別にきな臭いものを感じるわけではないが、どうも腑に落ちない。

    ミキは今回の仕事自体を、ひそかに探ることにしたのだった。

   「……どう見ても、『マリロワ』ツアートラックですが……」

   『マリッジロワイヤル』の名とともに愛媛代表の宇和島伊予の姿が大きくプリントされたコンテナを見上げた。

    プレートは愛媛ナンバー。封印も愛媛のものだ。

    トレーラー・ヘッドは品川ナンバーだった。キャビンの隅に日乃本財閥系列の大手運送会社の名前が

    書かれている。

    別にやましいことのない、一見ただの『マリロワ』ツアートラックである。

   「……偽装にしても、どうしてわざわざこれにするのかな」

    ミキはトレーラーの車輪の前でしゃがみこんだ。

   重荷重対応のアルミホイールにチューブレスのダブルタイヤが4つ。計8輪のタイヤとサスペンションの

   沈み具合から、ミキはこのコンテナの中には10トン程度の荷物が積まれていると算出した。

   コンテナの前に立ち上がる。目をX線に切り替えた。

   壁を透かして、中に積まれているものがはっきりと写し出される。

   「………やっぱり」






   それでは只今より、今回の仕事についてご説明させていただきます」

   会議室に集まったロボットとそのマスターたちの前で、アイリスが口を開いた。

   この説明は、むしろマスターたちへのものである。口頭で説明などしなくても、ロボットたちには

   データを入力するだけで充分なのだから。

   「まずはこの映像をご覧ください」

    アイリスが言うと、モニタに大型トレーラー・トラックが映し出された。

   「今回私たちがするのは、このトラックを北海道の岩見沢まで無事に届けることです。

    ご覧の通り、現在日乃本財閥主催で行われております『マリッジロワイヤル』のツアートラックですが、

    これはカモフラージュです」


   「ああ、そのトレーラーなら確かに愛媛支社で用意したものです」

    ミキの問いかけに、愛媛支社所属のロボット・玉藻はあっさりそう答えた。


   『マリッジロワイヤル』では、すべてのツアートラックはトレーラーとなっている。ヘッドは日乃本財閥系列の

   大手運送会社所有の品川ナンバーのトラクタで統一され、トレーラも日乃本財閥が用意したものに各代表者の

   出身都道府県すべてのナンバーをつけている。沖縄県代表の名護うるま専用車は『沖縄』ナンバーのみだが、

   静岡県代表の天竜江奈専用車は『静岡』『浜松』『沼津』『伊豆』『富士山』といった具合に。

   公正を期すためと代表者の出身地へのサービスを兼ねてのものである。

   ミキが調べた結果、『マリロワ』ツアートラックの中に、この萌須田社の倉庫に入っている宇和島伊予専用車に

   該当する車両はない。

   トレーラの所有者は、萌須田社愛媛支社になっているのだ。

   萌須田社は日乃本財閥の傘下ではない。といってまったく無関係というわけでもないようだが。

   「それなら、あのトレーラーの中には何が入っているのか、ご存知ですか?」

   「ご存知もなにも、あれを積んだのは私です。マスターと一緒に」

    平然と言う玉藻に、ミキはいささか面食らった。

   「……私が聞いておいてなんですが、いいんですか? そんな簡単に……」

   「別に、口止めされているわけじゃありません」

   玉藻はペースを変えない。

   「今回の仕事、少なくともあのトラックを守れというのは口実に過ぎませんよ」

   「それは私も最初から疑っていました。荷物があれだとわかったことで、それは裏づけられました」


   「北海道までは東京港からカーフェリーにて。海上航路の護衛はわが社の東北支社が担当します。

   仙台北営業所所属・那津海さんのマスター、海豹様が潜水艦にてフェリーを秘密裏に護衛してくださいます。

   本題は苫小牧港に到着してから岩見沢までの陸路です。積雪した山間部を通ることになるため、

   襲撃を受けるならまずここでしょう」

    アイリスは淡々と説明していく。

   「積雪した山中の大型トレーラーでの走行は、相当な技術を必要とします。

    ゆえに、ドライバーは運転に集中し、トラックの護衛担当者数名の他にドライバーの護衛担当者も

   1名配置することとします。

    それでは、各自の持ち場を発表します。

     ドライバーは愛羅さん、守璃さんとミキさんはトレーラーに乗車してガード。那津海さんは海豹様の

   潜水艦の艦載ヘリにて空からガードを。外部からトレーラーをナビゲートする役目は、私が担当します。

   ドライバーの護衛はラグナさんにして頂きます」

   「は、はい!」

   ラグナがどきっとしたように返事をする。

   「万一愛羅さんが負傷すれば、それだけで大幅に不利になります。

   ラグナさん、あなたが要です」

   「……はい!」





   ミキは、玉藻が最後に言った言葉を思い出していた。

   「真の狙いは私たちロボットか、

   あるいは……。

   『萌須田社』そのものかもしれません」


   「輸送は明後日、午後九時よりスタートします。

    質問などなければ、これで解散とします。

    皆様、メンテナンスは入念にお願いします」






   萌須田社の本社入り口の前に、派手なリムジンが止まった。

   エスコートしてきた警護車は……装甲車!?

   目を丸くしている俺の前で、運転手がリムジンのドアを開いた。

   黒光りするブーツの高いヒールが、かつんと音を立てる。

   「……女?」

   いかにも軍の偉いさんといった風情のぴっちりした黒いスーツを着てリムジンから降り立ったのは、

   まぎれもなく若い女だった。ゆるくウェーブのかかった長い髪が、風を受けてさらりとなびく。

   いや、よく見るとまだ「女の子」という年頃のようだ。アイリスや守璃と同じくらいか。

   でも、その意志の強そうな切れ長の目や引き結んだ唇、何者も寄せつけない雰囲気は、守璃とはまったく

   異質なものだった。アイリスとも……違う。似てはいるが、同じじゃない。

   自動ドアが開き、その少女はブーツの音を立てながら入ってくる。

    ふと、その少女がこちらを見た。

    どきり、と心臓が跳ね上がる。

   少女は別にどうするでもなく、すぐに視線を前に戻した。受付係が立ち上がって挨拶している。アポなしでは

   ないようだ。

   「……ふう」

   ただ一瞬目が合っただけなのに、緊張した。

   「相変わらず派手だな」

   突然横からした声に振り向く。

   いつもの、ナンパ男だった。

   「誰だい?」

   「富士宮珠美。富士宮財閥の次期頭首サマだ」

   「……へえ、あれが噂の。

    ……で、その富士宮珠美が、うちに一体何の用だ?」

   「お前も聞いてるだろ。うちを買いたいって奴がいるって噂……」

   「ああ。社長は何も言わないけど……。

    ……まさか、それが富士宮財閥だって……!?」

   「そのまさかだよ。っていうか、お前本当に知らなかったのか?

    まあ、ここのところずっと忙しかったからな。社内の噂話なんぞ、耳に入らなくて当然かもな」

   珠美は受付を後にし、エレベーターに乗り込んだ。

   「富士宮はうちの買収に凄え額を提示しているそうだ。それこそ、うちくらいの企業なら3つは買えるって程のな」

   「本当かよ」

   「噂だって言ってるだろ。だが、ああしてやってくるからには、少なくとも根も葉もないヨタ話じゃないってことだな」

   「……なんで、社長は話してくれないんだ」

    ナンパ男はふうっと息を吐いた。

   「社長の気持ち、分からないお前じゃないだろう?」

   「…………」

   「まあ、お前は余計なことを考えずに今の仕事に専念するこった。

   上から何も言われんのに、下の俺たちが気を揉んだって仕方ないだろ」





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