〜バトル・オブ・モエスタD〜





   夜中の東京港フェリー乗り場に集まった、何台ものトラックの群れ。

   まるで貸切であるかのように、ほぼすべてが日乃本系大手運送会社のトラックだった。

   牽引しているトレーラは箱車であるにも関わらず幌がかけられ、すっぽりと荷台が覆われている。



   次回北海道で行われる『マリッジロワイヤル』へ向かうツアートラックの一団だった。いつもの移動は

   高速道路を埋め尽くし、『キャラバン』ならぬ『コンボイ』と評されるほど派手だが、次回北海道のコンセプトは

   「サプライズ」とあって、今回は秘密裏に行われる。


   「こちら那津海です。Aブロック、異常ありません」

   「こちらミキです。Bブロックも異常ありません」

   「了解。船内クリアー。トレーラー、乗船してください」

   「りょーかい♪」

    アイリスの指示を受け、愛羅は大きなシフトレバーを動かした。2つある助手席にラグナと守璃が座っている。

    フェリーの中に吸い込まれていくトレーラーたちの後に続いていく。

   「ギアもハンドルも、随分軽いのね。運転しやすいわ」

    独り言のように愛羅は言った。

   「ディーゼルX8エンジン+ターボチャージャー。1万6000CC・620馬力っていうからもっとごついかと思った」

    サブシートに座ったラグナの顔に、「?」マークがついていた。トラックのメカニカルな部分についての

   知識は持っていない。

   「前に乗ったハマーなんて、凄かったんだから」





   「……始まったな」

   萌須田社の社長室で、社長はひとり、つぶやいた。

   「皆に支社のロボットたちとの交流をさせてやりたいと思っていたが……。

   まさか、こんな形になるとはな……」





   トレーラーは船内の一角に止められ、がっちりと固定された。

   汽笛を鳴らし、フェリーは東京港から出港した。

   目的地は……北海道・苫小牧港。

   「さあて。まずは一休みといきましょうか。

   美味しいビール、あるといいな〜♪」

   愛羅は周りに集まったロボットたちに、明るく声をかけた。









   「ただあなたの上司に私がなるだけで、あとは何も変わりません。

    いえ、我が富士宮の一員となれば、潤沢な資金が手に入りますわ。

    ロボットの開発資金が1体1000円などというしみったれたことも、その後始末を社員にさせることもなく、

    存分に開発ができましてよ」

   「うぐ……」

    さらりと痛いところをついてくる。「……それを言われると弱いな」

   「……だが、君が言う『開発』とは、戦闘系ロボットのことだろう?」

   「他に何がありまして?」

   「うちの技術を高く評価してくれるのはありがたいが、私は戦争の道具にするために、アイリスに戦闘モードを

   装備したり、守璃を開発させたんじゃないんだ」

   「詭弁ですわね。戦わずして、一体何を守れるというのですか?」

   「…………」



   どうにもやりにくい相手だった。

   この富士宮珠美という少女は。

   だが、この少女の出す条件がいくら魅力的であっても、自分よりうまく萌須田社を運営できるのであっても、

   飲むことはできない。

   萌須田社を軍需企業にしようなど……。



   「話し合いはどこまで言っても平行線……もう飽きましたわ」

   何度目かの話し合いの場で、珠美はそう切り出した。

   「ひとつ私と賭けをしませんか?」

   「賭け?」

   「我が富士宮は、来月北海道で開催される『マリッジロワイヤル』の妨害を計画しています。

    あなたたち萌須田社のロボットがそれを阻止できれば、この買収の話はなかったことにする。

    というのはいかがかしら?」

   「うちは日乃本財閥の系列ではない」

   「でも、あなたは日乃本の現会長とは旧知の仲。

    額は少ないが、これまでにも資金援助があった。

    第一期のロボットたちの開発にもね」

    さすがによく調べている。

   「……どうして『マリッジロワイヤル』の妨害などするんだい?」

   「富士宮は月之宮とは血縁でしてね。

    これだけで十分でしょう?」

   「もしうちのロボットたちが富士宮の部隊を破れば、この買収話は終わるどころか、単にリセットされて

    また最初から、ということになるんじゃないのかい?」

   「当然ですわ。私は諦めない」

   「……虫のよすぎる話だな」

   「でも、あなたは断れない」




   「参ったな……。

    司と同じ年頃なのに、堂に入ったものだよ。あの珠美という子は。

    あの行動力……彼女にそっくりだ。

    さすが血筋と言うべきかな」

    とても困っているとは思えないが、変に複雑な顔で日乃本の会長は後頭部を掻いた。

   「萌須田社の社長とは長い付き合いだし、なにかと世話になっている。

    うちとしては、富士宮に取られるのは勘弁願いたいな。

    でも……これではっきりした。あの子の狙いが」

   『月之宮と血縁』というのは、半分は介入するための口実である。そもそも、血縁といってもかなり遠いのだ。

   珠美からもう1、2代後になれば、赤の他人になってしまう。

   萌須田社を切り離すことで、日乃本財閥にダメージを与える。

   世界征服を狙う珠美にとって、富士宮に勝るとも劣らぬ力を持つ日乃本財閥は、目の上のこぶなのだ。




   「それでは、私からお願いするよ。

    あのツアートラックを、無事に岩見沢まで届けてくれ。

    これは日乃本財閥会長としての、正式な依頼だ」

   「……わかりました。

    わが社をあげて、お引き受けします」





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