〜タロットカードの衣替え〜



    「それじゃ、行ってくるから。留守番よろしくな。置いてあるお菓子、食べてていいから。」

    「早く戻ってきてくださいね、ご主人様…」

    「大丈夫っ!しっかり留守番してるからねっ!」

   今日、お兄ちゃんがアイリスちゃんとお買い物に出かけるので、ココはRUNAちゃんといっしょにお留守番

   することになりました!本当はココもいっしょに行きたかったんだけど、たまにはがまんしなくちゃね。

   ちなみに愛羅ちゃんは新しい機能をインストールするために、今は眠っています。

    「しっかり、よろしくお願いしますよ。」

    「うん、がんばる!」

   アイリスちゃんにしっかり返事すると玄関のドアが閉まって、家の中は少しだけ静かになりました。

    「ココちゃん、鍵、閉めないと…」

    「あ!そうだったね」

   RUNAちゃんの声で気付いて、扉の鍵をしっかりと閉めて…と、これで一安心!お兄ちゃんが出かけちゃって

   RUNAちゃんは泣いちゃいそうな顔をしてるけど…その気持ちはすっごくわかる。でも、愛羅ちゃんが

   眠ってる今、ココたちがしっかりしなくちゃね!





    「し、静かだね…」

    「うん…」

   お兄ちゃんたちがいなくなった家の中は、なんだかいつもとちがう雰囲気がします。さっきまで暖かかった

   空気が急に冷えたような…心細い感じがするの。

    「テレビでもつけようか?」

   おしゃべりする声が恋しくなって、ココはテレビがスイッチに手を伸ばすと、ちょうど映画がやっていました。

   四角い箱の中でばたばたと動き回る、これは…外国の人、かな?とにかく、これで少しは気がまぎれるかも。

    …と思っていたら…

    『ギイヤアアアアアアア!!!』

    「きゃっ!」

   急にテレビの中で、遊園地のお化け屋敷に出てきそうな、なんだかモノスゴイ人たちが大声を上げて

   飛びかかってきたの!ココ、びっくりしてテレビのスイッチ消しちゃった…

    「テレビの中でも…痛そうな人…大丈夫なのかな…」

   RUNAちゃんはココみたいにびっくりしたり怖がったりするんじゃなくて、さっきのモノスゴイ人たちが傷だらけで

   痛そうだって、心配してるみたい…RUNAちゃんってホント、勇気あるんだなあ。

    結局、テレビをつけるのも怖くなっちゃって、RUNAちゃんと寄りそってじっとしてたんだけど…

    「あ…」

   何かに気付いたRUNAちゃんがテーブルに向かっていきました。テーブルの上にはお兄ちゃんが置いていって

   くれたお菓子があったけど、RUNAちゃんが手に取ったのは…

    「これ…アイリスちゃんの…」

    「あ…タロットカード!」

   それはアイリスちゃんが愛用しているタロットカードでした。出かける前まで何かを占っていたみたいで、

   テーブルの上にばらばらに置いたままになっていました。

    「全部でいくつあるんだろう?1枚、2枚…8,9,10……22!こんなにあったんだあ」

   カードにはひとつひとつ、不思議な絵が描いてあるんだけど、ココはアイリスちゃんみたいに物知りじゃないから

   それがどんな意味をもっているのか、全然わかりません。見た目で明るそうとか、こわそうとか、そのくらいは

   ピンとくるんだけど…

    ココもRUNAちゃんも、カードの絵柄にじいっと見入っていました。すると…

    『にゃ〜ん』

    「あ、ロロちゃん」

   ロロちゃんは最近家に寄り付くようになった猫ちゃんです。茶色と、白と、黒の3つの色が散りばめられた

   かわいい子♪ちょっと猫じゃらしで遊んであげたらなついちゃって、時々こうやってココのところに遊びに

   きてくれるんです。

    「おなか…すいてるのかな…」

   気付いたRUNAちゃんが置いてあったクッキーをひとかけらロロちゃんにあげると、ロロちゃんはちいさな口を

   おおきく開けて、クッキーを夢中でほおばり始めました。

    …ロロちゃん見てたら、ココもおなかすいてきちゃった…

    「ココもひとつ…」

   たまらなくなって、クッキーをひとつ手にとって、口に運ぶ。ぱくっ。もぐもぐもぐ…

   くふ、やっぱりおいしい!

    「ねえ、RUNAちゃんはどのカードが好き?」

    「RUNAは…仲がよさそうなふたりのカード…これが、好き。」

    「やっぱり!ココもね、占って引き当てるならこれがいいなあって思ってたところなの」

   アイリスちゃんに聞かれたら笑われちゃうかな?見た目で決めちゃったけど、もっと深い意味があるのかも

   しれないし…

    ココたちはカードに夢中になって、右手にカード、左手にクッキーをつかみながらおしゃべりしていました。

   お兄ちゃんに見られたらお行儀が悪いって言われちゃうかなあ。

    『にゃーん』

    「ロロちゃん、もうひとつだけだよ?あとはお兄ちゃんのだからね」

   クッキーをせがむロロちゃんにそう言うと、ココは右手をロロちゃんに差し出しました。ロロちゃんはさっきと

   同じく、クッキーをおいしそうに…

    「こ、ココちゃん、それは…!」

    「え?」

   どうしてRUNAちゃん、びっくりしてるんだろう?そう思いながらロロちゃんにあげたクッキーを見ると…

   ………!!?

   クッキーじゃない!!!

   ロロちゃんがいっしょうけんめい噛もうとしているのは、1枚のタロットカード!!

    「きゃああ、ロロちゃん、それはだめ、だめええええ!!!」

   あわててロロちゃんの口からカードを取り返したけど、肝心のカードはロロちゃんの歯型がいっぱいついているし、

   もう絵柄も見えないくらい、ボロボロになってしまいました。きれいな太陽の絵が描かれていたのに…

    「どどど、どうしよう???」

   ココはすっかりあわててしまい、RUNAちゃんと顔を見合わせました。RUNAちゃんも一緒になっておろおろし、

   ふたりでどうすることも出来ずにとまどうばかり。

    こんなとき、アイリスちゃんが占いをしているときの姿が思い浮かびます。ひとつひとつ丁寧にカードを手繰り、

   静かにカードを引くアイリスちゃんの姿は…とっても不思議な感じがしました。そんな中でも時々、引いたカードを

   見て、少しだけくすっと笑ったりして。いいカード引けたのかな、って、ココまで嬉しくなったりして。

    アイリスちゃんがこのタロットを宝物のように大切にしているのは、間違いないと思うの。

    その1枚を…ココのせいで、こんなボロボロにしちゃうなんて…絶対に怒られちゃうよお!な、なんとか

   貼り合せられないかな?……ダメ、うまくいかない!これだけ破れちゃったら、元になんて絶対戻せそうにないよ。

    「う〜ん、目覚めすっきり♪イイ感じで耳掃除できそうね!早く試したいなあ♪」

   廊下のほうから愛羅ちゃんの声が!機能のインストールが終わって、目が覚めたみたい。

    ココ、思わず破れたカードを後ろ手に隠しちゃった…

    「おはよ〜。あれ、ココちゃんとRUNAちゃんだけ?」

    『にゃ〜・・・』

    「あら、ロロちゃんも忘れてないわよ。久しぶりね、ゆっくりしていってね。…ん?今日はちょっと元気ないかな?』

   愛羅ちゃんに頭をなでられると、ロロちゃんはちいさな声で鳴きました。なんか、ゴメンナサイって言ってるみたい…

    (言わないでね、RUNAちゃん)

    (こくり)

   いけないことだとわかっていたけど、今のココには正直に話す勇気がありませんでした…

    「ただいまー。ふう、けっこうな荷物になっちゃったな」

    「ビールを1箱多く買いすぎです、マスター…」

   そうこうしているうちに、お兄ちゃんとアイリスちゃんまで帰ってきちゃった!手にしたカードの破片をこぼさない

   よう、きゅっと強く握りしめる…それを気にしたRUNAちゃんがちらちらとココの手を見ながら不安そうな顔を

   しています。

    (気付かれちゃうから、気にしないで。大丈夫だから)

    RUNAちゃんにはそう目配せするんだけど…ホントは全然大丈夫じゃない!

    ココ、どうしたらいいの???





    結局、打ち明けることができないままに夜が過ぎていきました…

    隠し事してるせいでお兄ちゃんにも素直に甘えられないで…ホントはこういう時だからこそいっぱい甘えたい

   のに。

    いくら寝ようとしても、目が冴えちゃって眠れない。こんなときに限って余計に充電しちゃってるから、眠れなく

   なっちゃう。すぐそばで眠っているRUNAちゃんも寝付けないみたいで、何度も目をぱちぱちさせてます。

    月の光がまぶしい…そういえば、ダメにしちゃったカードって、月のカードだったっけ…あれ?太陽だったかな?

    「お月様…ココを、たすけてください…」

   悪いのはココなんだけど、祈らずにはいられませんでした。すると…ココの呼びかけにこたえるかのように、

   月の光が蔭って、細長い影が窓の外から…えええ!?まさか、月の神様!?

    『にゃ〜ん』

    「え…?あ、ロロちゃんだったんだあ。びっくりしちゃった…」

   ロロちゃんがいつでも遊びに来られるように、ココが家にいるときはベランダの窓をいつも少しだけ開けるように

   してるんだけど、こんな時間に来るなんて…どうしたんだろう?

    「ココちゃん…ロロちゃん、口になにか…」

   RUNAちゃんといっしょによく見てみると、ロロちゃんが口に何かくわえています。それは1枚の…カード?

   ロロちゃんはそのカードのようなものをココの目の前にていねいに置いてくれました。手にとってめくってみると、

   そのカードの片面はアイリスちゃんが持ってるカードの模様といっしょなんだけど、反対の面は真っ白!

    ロロちゃんは前足で、カードの真っ白な面を爪で2、3度引っかく仕草をみせてくれました。

    「あ…そっか!ね、RUNAちゃん、これでなんとかなるかも!」

   きょとんとするRUNAちゃんに、ココは自分のヒラメキを話してみました。

    「あのね…」





    真っ暗な空の時間だったけれど、ココとRUNAちゃんはお兄ちゃんたちに気付かれないように明かりをつけて、

   破れたカードの絵柄をがんばって思い出すことにしました。

    「太陽だっけ?月…ううん、星?あーん、そっくりな絵が多かったから、わからないよお」

    「ココちゃん、たしか…太陽で、大丈夫だったと思うよ」

   RUNAちゃんがしっかり覚えてくれていて助かりました。あとは、こまかいところを少しずつ…

    「RUNAちゃん、太陽の下に人がいたような気がするんだけど…覚えてる?」

    「たしか、2人か3人…いたかな…」

   こんな感じで、元の絵柄を思い出しながら、鉛筆でしっかりと形にしていきます。

    実はココとRUNAちゃんは、最近『お絵描き機能』をインストールしたばかりでした。だから、今のココたちなら

   破れちゃったカードと同じものが描けるかもしれない…それで、同じモノを作り直そうと思ったんです。ちょっと前

   まで絵なんて全然描けなかったココだけど、今なら気持ちよくスイスイと描けちゃう!なんだか、手が勝手に

   動いてくれるんです。

    自分でもおどろいちゃったくらい!

    カードの上のほうに、大きめの太陽、後ろにはレンガの壁、そして人も描いて…新しい機能が助けてくれる

   ままに、何とか思い出したものを鉛筆で下描きしていきます。

    「そう、たしか、こんな感じだったよね!」

    ココはRUNAちゃんとちょっぴり笑いながら顔を見合わせました。下書きは、これで終わりっ!

    あとは色を塗って…って、あれれ?色鉛筆とか、どこにあったのかな…

    「RUNAちゃん、知ってる?……あ……」

    ふとRUNAちゃんの方を向くと、うとうとしながらとても眠そうにしていました。耳の羽もおやすみしたそうに

   ぺたんと下を向いてしまっています。

    「ココも…ちょっと、ねむいかも…」

    こんなに遅くまで起きてたのって、初めてかも…ココはRUNAちゃんに毛布をかけてあげると、鉛筆を置いて

   ロロちゃんの頭を撫でてあげました。

    「ありがとうね、ロロちゃん。出来上がったら、見せてあげるから」

   ロロちゃんは目をぱちくりさせると、ひらりと窓の端に飛び乗って、外に出て行きました。

    「色のことは…明日…考えようかな…」

   どんどんぼうっとしていく中で、それでもココは少しだけ明るい気持ちを取り戻せたような気がして、すぐに眠りに

   落ちていきました。





    「ねえお兄ちゃん、色鉛筆か、絵の具って…ないかなあ?ココ、お絵描きしたくて…」

    「ん、色鉛筆なら一応あるぞ?それも全50色の本格的なやつが!」

    「ええっ、ホント!?」

    「だいぶ前に思い立って買ったんだ。1万するやつを…あまり手をつけてなくて、宝の持ち腐れだから、

     自由に使っていいぞ」

   そう言ってお兄ちゃんが手渡してくれたのは、ずしっと重みのある細長の箱でした。箱を開けてみると、白から

   始まる細かい色が、ずらりとならんでました。こんなスゴイもの持ってるなんて、お兄ちゃんも絵を描くのが

   好きなのかな?

    ココとRUNAは家のすみにまとめてある、裏が白いチラシをいっぱい持ってきました。黄色いのも、青いのも

   混ぜて…全部で20枚くらい!

    「おいおい…そんなの使わなくても、ノートがあるからそっちを使っていいんだぞ?」

    「ううん、最初は、こっちの紙に描いてみるの!」

   …ココ、またちょっぴりウソをついてしまいました。紙をいーっぱい用意したのは、描きかけのタロットカードを

   紙の下に隠したかったから。お兄ちゃんやアイリスちゃんが来たらすぐに隠せるよう、こっそりと描き進めなきゃ

   ならなかったから。

    早く…今日中に終わらせなきゃ!

    (RUNAちゃん、空と太陽を塗ってくれるかな?ココは下の半分を塗るから)

    (うん…が、がんばろうね)

   RUNAちゃんがうなずきながら答えてくれました。2人でやれば、1人より絶対早いはず!

    それからはもう、ドキドキの連続でした。物音が聞こえるたびに、あわててカードを隠したりして。紙のほうに

   何も描いてないとバレちゃうと思ったから、簡単にラクガキを増やしたりして。『何ができるか楽しみにしてるよ』

   って声をかけてくれるお兄ちゃんや愛羅ちゃんと目を合わせるたびに、申し訳ない気持ちになったり…

    …い、色を塗るのって、けっこうタイヘン!!

    いちばんびっくりしたのは、ココたちの背後をアイリスちゃんが通りすぎたときでした。お兄ちゃんや愛羅ちゃんと

   違って、足音がちいさいから全然気付かなくて…長い髪の影が、ココたちの頭の上からかぶさってきた時は、

   ホントに意識がとんじゃうかと思った!

    それでも、RUNAちゃんの助けもあって、なんとか陽がかげってくる前には、なんとか完成させることが

   できました!

    (やったね♪)

    大きな声が出せないので、RUNAちゃんとちいさくガッツポーズします。

    あとは、このカードをアイリスちゃんのタロットの中に戻すだけ…




    カードは昨日からアイリスちゃんは手をつけてなかったみたいで、キッチンのテーブルの上に置いてありました。

   今、愛羅ちゃんが夕食用の食材を吟味しています。

    「今日は角煮でいこうかな!ビールにも合いそうだし♪」

   真っ白なエプロンをつけた愛羅ちゃんは、とっても楽しそう。キッチンに入ってきたココとRUNAのことは、

   あまり気にしてない様子です。

    (不自然にならないように、そっと、そうっと…)

   足も手も、どうしてもぎこちなくなってしまいます。ちょっと手を伸ばして、カードの山の上に、新しい太陽の

   カードを置くだけなんだけど…ていうか、ここまで慎重になることもなかったかな?愛羅ちゃんもお料理に

   集中してるし、自然にカードを置けば…


    ごん!


    考え事をしていたら、足を椅子のカドにぶつけてしまいました。あ、愛羅ちゃんに気付かれちゃう!

    「あら〜、ココちゃんにRUNAちゃん、どうしたの?」

   その時のココは手をのばしてカードを置こうとしてた最中でした。い、いくらなんでもこのカッコじゃ…!!

    「まあ、RUNAちゃん、キレイな翼♪」

    「う、うん…キラキラしてて、きれいだから…出してみたくて…飛べないけど…」

   カードのことがバレちゃう!と焦ったその時でした。RUNAちゃんは淡い光の、キレイな翼を背中に輝かせて

   いました。その光はけっこうまぶしくて、うまくココの手元を隠してくれています。

    (今のうちっ!)

   ココはこのチャンスを生かして、うまくカードをタロットの山の中に混ぜ、手を引っ込めることができました!

   RUNAちゃんに目線で『うまくいったよ!』のサインを送ります。

    「愛羅ちゃん、ココ、お料理できないから…教えて!」

    「あら、じゃあ一緒に作りましょ♪RUNAちゃんも一緒にどお?」

    「RUNA…がんばって、やってみるね…」

   うまく話を変えることができました。これで、タロットのことは大丈夫なはず!お砂糖のビンを棚からこぼしそうに

   なりながらも、心の中ではほっとしていました。

    でも…これで、よかったのかな…?





    夕食を済ませて居間でくつろぎながらも、ココの心にはちょっともやもやしたものが残っていました。やっぱり、

   アイリスちゃんにタロットを1枚ダメにしちゃったこと、はっきり言わなきゃいけないよね…でも…いつ、どうやって

   言えばいいのかな…?このままじっとしてればアイリスちゃんも気付かないかもしれないし、ココも忘れちゃうの

   かもしれない。

    でも、それはいけないことだよね!だけど…やっぱり、どうやって話せばいいのかわからないよ…ココも怒られ

   ちゃうだろうけど、アイリスちゃんだって悲しむよね…

    「…!!……こ………これは……」

    「ん、アイリス、どうしたの??何かおかしなことでもあった?」

    「おかしいも何も…マスター、これは…」

   あ…お兄ちゃんとアイリスちゃんが何か話してる…手にはタロットカードを持ってる!?

    「ぷ…く……あははははは♪こりゃ、凄いな…」

   お兄ちゃん、急に楽しそうに笑い出して、どうしたんだろう?ココがふしぎに思っていると、お兄ちゃんは

   1枚のカードを持ちながら、ココの方を向いて…

    「これ、ココのしわざだろう?すごいな、俺もアイリスも知らない間にカードを一枚すり替えるなんて」

    「もう…『ちょっぴりイタズラ』にも程がありますよ…」

   アイリスちゃんも肩をすくめています。や、やっぱり気付かれちゃった…もうちょっとうまくいくかなって思ったん

   だけど、やっぱり上手じゃなかったからかな…それとも色鉛筆を使っちゃったから?

    「あ…あう…あ、あの…」

   うまく言葉が出てこない!は、早くごめんなさいしなきゃならないのに…!

    でもなんだかお兄ちゃんもアイリスちゃんも、怒っている感じじゃないみたい。逆に…笑ってる??

    「一見、太陽のカード。でも、本来太陽の下に描かれるべき2人の子供が、こうなってしまっては…」

    アイリスちゃんは苦笑いしながら、ココの描いたカードを指し示します。変なところ、どこかな…


    …あ!


    太陽の下で手をつないでいるのが、ココとお兄ちゃんとRUNAちゃんになっていました…

    夢中になって機能のはたらくままに急いで描いてたから、全然気付かなかった…RUNAちゃんもそのことに

   今気付いたみたいで、両手を口に当ててびっくりしています。

    「これではどちらかというとラヴァーズに近いですね。でも…悪い出来ではありません。しばらくはこれを使うのも

    悪くないですね。」

   これは、ほめてもらってる…のかなあ…

    「で、ココ。もともとのカードはどうしたんだ?」

   お兄ちゃんの一言で思い出しました。そうだ、こっちのこと、ちゃんと言わないと…

    「あ、あのね、ココがいけないの!ココのせいで、間違って、実は…アイリスちゃん、ごめんなさい!!」

   もう、こうなったら全部話すしかないよね。怒られるの、こわいけど…それだけのことをしちゃったんだから。

   ココは、RUNAちゃんにフォローしてもらいながらすべてを話しました。アイリスちゃんのタロットに興味をもった

   こと、クッキーを食べながらカードを見ていたこと、

    「それでカードをクッキーと間違えてロロちゃんに…」

   …あ!ここでロロちゃんのことしゃべっちゃったら、ロロちゃんが家に来られなくちゃっちゃう!?そう感じて、

   ココは思わず口ごもってしまいました。

    別の…他のいいわけを考えないと!えと、えと、えと…

    「なるほど…カードに猫の毛がくっついていたのは…そういうこと…」

   あああっ!アイリスちゃんに気付かれちゃった!

    「違うの、ココがいけないの!ココが間違えちゃったから!ロロちゃんは全然関係ないの!」

   ココが怒られちゃうのは仕方ないけど、ロロちゃんが来られなくなっちゃうのはイヤ!タロットの神さま、

   お願いです、ロロちゃんを助けてください…!

    「あの朝、出かける前に引いたカードはジャッジメントの正位置…『復活』の意味はこういうことだったのね。」

   アイリスちゃんは、不思議とおだやかな表情をしています。ココは祈る気持ちです…

    「ね、アイリス、カードが一枚なくなっちゃったのは残念だけど、せっかくココとRUNAが作ってくれたんだから、

     それをそのまま使ったらどうかな?」

   …あれ?お兄ちゃんの声、意外と楽しそう…?

    「あら、いいじゃない〜。手作りの占いカード、世界にひとつしかないものねっ♪」

   愛羅ちゃんも同じく楽しげな顔をしてる…これって…

    「まあ…裏面がまったく同じですから、使う分には支障はありませんね。ちょっと早いですが、占いが示すとおり

    カードも衣替えが必要だということでしょう」

   アイリスちゃんはそう言うと、手描きのカードを山の中に戻しました。カードはすべて裏返されているから、ちょっと

   見ただけでは一緒になっていて、どれがどれだかわかりません。

    もしかして、怒られなかった…のかな?ココはRUNAちゃんと顔を見合わせました。

    「お兄ちゃん…ココ、いけないことしちゃったのに…」

    「まあ、それくらいの失敗なら俺もよくやっちゃうしなあ。それより、アイリスに感謝しないとな」

    「か、感謝だなんて…わたしはただ、占いの結果の指し示す方向に従っただけですから…」

   アイリスちゃんは少し顔を赤くしながら、いつもの調子でお兄ちゃんと話しています。

    この日、ほんとうに感じました。

    こんなドジな、試作品のココをこうやってちゃんと受け入れてくれる…お兄ちゃんが持ち主になってくれて、

   みんなといっしょにお兄ちゃんのところに来られて、本当によかったって。





    あの出来事からしばらくたったけど、アイリスちゃんはタロットを買い換えることなく、まだあの手描きのカードを

   使ってくれているみたいです。『あれ以来、妙に太陽のカードを引くようになった』なんて、苦笑いしながら言われ

   ちゃったこともあったりして。

    あのカードがよく出るのなら…ココは、ちょっとやってみたいことがあります。

    あのカードに描かれているのは、お兄ちゃんと、ココとRUNAちゃんの3人。だから、どうせならアイリスちゃんと

   愛羅ちゃんも描き加えたいなあって思うんです。

    できれば、新しく生まれてくるみんな…守璃ちゃん、音夢ちゃん、さくらちゃん、ユズちゃん…も!

    『にゃ〜…』

   あ!ロロちゃんも忘れてないよ?

    とにかく、ココが大好きなみんなを、1枚のタロットにいっしょにおさめたい!

    そんなことをお兄ちゃんにこっそり話してみたら…

    「それなら、アレに描き加えるよりも、新しいカードを作った方がいいかもなあ」

   なんて言いながら、楽しそうに笑ってくれました!




    お兄ちゃんからもらった50色の色鉛筆はすこしだけ短くなったけど、まだまだ新品みたいに輝いてます。

    新しいタロットを作るときはどの色を使おうかなあ…今から楽しみです!




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